南海トラフ巨大地震 全国一高い・・・ |
2019年02月18日11時01分 (更新 02月18日 14時07分)
南海トラフ巨大地震で「全国一高い津波」の到達が想定されている高知県黒潮町の大西勝也町長(48)が熊本県水俣市で講演し、町を挙げての防災の取り組みを紹介した。2012年に国が推計値を公表して以来、巨大過ぎる津波に諦めムードも漂うという町民の先頭に立ち、犠牲者ゼロを目指して「来るべき日」に備えている大西氏。「行政主導の防災には限界がある。住民がいかに主体性を持つかが問われる」と強調し、防災教育の重要性を説いた。
高知県南西部に位置し、カツオの一本釣り漁で知られる人口約1万1千人の黒潮町。東日本大震災の翌12年3月、太平洋に面した漁師町に衝撃が走った。「最大震度7、予想津波34・4メートル、県沿岸への到達2分」-。内閣府有識者検討会が南海トラフに関する報告書を公表、想像だにしなかった推計値が突き付けられた。
「町は大混乱。諦めるのも無理はない。この町は一体、どうなっていくのだろうと思った」と大西氏。まず、町職員に訓示した。「『どうしようもない』と対策を諦めたり、『生活ができる町でない』と町の営みを否定したりするような考え、発言を一切、禁止する」。試行錯誤が始まった。
町内には61の行政区があり、うち沿岸部は40。全職員約200人を各行政区の担当に振り分け、住民とのワークショップを重ねた。避難時に支障となる地形的、物理的課題を地図上に落としこみ、実際に現地を歩いては現実に即した点検作業を繰り返した。
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浸水が予想されるのは約3800世帯。10~15世帯の班に分けて集会を開き、戸別の「避難カルテ」作りにも着手した。家族構成や自力避難の可否、避難方法などを世帯ごとに記入してもらった。既に全戸のカルテを役場内に保管しているという。集会への世帯参加率は行政主催としては異例の6割超。「小単位で開催したことで欠席しづらい雰囲気が生まれた」と大西氏は分析した。
集会や避難訓練のたび、手押し車で参加する独居の高齢女性の姿もあった。大西氏は「『わしは逃げん』と言っていた人も言いづらくなる。少なくとも公然と口にする人がいなくなった」と振り返り、「やっと防災のスタートラインに立てたと実感した」と吐露。住民の意識を変えていく難しさと意義を力説した。
町が特に力を入れたのが、小中学校での防災教育の継続だという。「中学生は10年たつと大人に、さらに10年たつと親になる。災害から生き抜く力を身に付けた若者がどんどん育てば、防災教育が町の文化になる」。町職員が再三、説得してもかたくなに避難行動を拒んでいた高齢男性が、近隣の小中学生の言葉には耳を貸すことがあるという。「子どもたちには地域を動かす力がある。その力を借りて防災を進めていく」と続けた。
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「日本一危ない町」として注目を集めてから7年近く。津波避難タワーなどハード面の整備だけではない町の取り組みは「防災先進地」の事例として全国から視察が絶えない。大西氏は「避難開始のタイミングを前倒しすることこそが一番の防災。防災は行政がやるもんだという認識を改めると同時に、防災で地域コミュニティーを再生することにも挑戦したい」と意欲を示した。
最後に大西氏は、ある高齢女性の歌を紹介した。
国が推計値を示した直後に「大津波 来たらば共に 死んでやる 今日も息(そく)が言う 足萎(な)え吾に」と詠んだ2年後、女性は「この命 落しはせぬと 足萎えの 我は行きたり 避難訓練」とつづった。そして、世界30カ国から361人の高校生が参加して16年11月に町で開かれた「世界津波の日」高校生サミットの後には「海山を 越えきて若きら 誓いたる 津波防災 『黒潮宣言』」。4年の間に生じた女性の心境の変化を読み取った大西氏は「この三つの歌に防災のヒントがある気がしている」と締めくくった。
講演は1月31日、熊本県や水俣市、各種団体などでつくる水俣・芦北地域水俣病被害者等保健福祉ネットワークが実務者研修会として開いた。
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【ワードBOX】南海トラフ巨大地震の被害想定
東海沖から九州沖の海底にある溝状の「南海トラフ」沿いで、東日本大震災と同じマグニチュード9クラスの地震と津波が起きた場合の被害試算。内閣府の想定では、高知県黒潮町に最大34.4メートルの津波が襲来、最悪で32万3000人が死亡。九州では大分、宮崎両県を中心に死者は最大約6万人、全壊・焼失は12万4000棟。九州の直接的な被害額は8兆2100億円に上るとされる。
=2019/02/18付 西日本新聞夕刊=
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私のコメント : 平成31年4月26日、山口県 萩市 総務課 行政班 藤崎課長補佐と対談した後、島根県 津和野町 総務財政課 安村係長と私は、対談した。