ボルボが日本で「脱ディーゼル」に踏み出した理由 |
1/10(木) 10:12配信 最終更新:1/10(木) 12:15
NIKKEI STYLE 配信より
2019年以降に導入する新型車は全て電動化(EV・PHEV・マイルドHV)させると発表。一躍エコ化の先陣を切った北欧ボルボ。日本でもボルボ・カー・ジャパンが待望の新型ステーションワゴン「V60」にディーゼルを設定しないと発表した。現状、輸入車に関してはドイツ、フランス勢ともにパワーと燃費に優れたディーゼルが人気という日本市場で、いち早く決断を下した理由は何か。前編「『ライバルをおとしめない』 絶好調ボルボ社長の戦略」に続き、同社の木村隆之社長を直撃した。
◇ ◇ ◇
小沢コージ(以下、小沢) 聞いて驚きました新型V60。この世代からクリーンディーゼルの設定がないそうで。聞けば同じミディアムクラスのSUV、XC60のディーゼル比率は既に約6割。ボディーが重いこともあってよく売れています。そうでなくてもボルボ・ディーゼルはパワフルかつ燃費もいいと評判はいい。よく脱ディーゼルに踏み切れましたね。
木村隆之社長(以下、木村) ディーゼルは15年の世界的スキャンダルがなかったらエコなパワートレインとして間違いなく残ったはずです。でもフォルクスワーゲン(VW)のスキャンダルが起きてしまいました。しかもディーゼルは残念ながらグローバルな商品ではなく、米国ではほぼ売れていませんし、中国にもありません。欧州以外はインド、日本、韓国ぐらいで、いうなれば欧州一本足打法なんです。
小沢 確かに。
木村 そしてその本拠地欧州でのディーゼル比率がここ1年で20ポイントも下がっている。これは驚くべきことですよ。しかも欧州は6対4か半々ぐらいの割合でカンパニーカーが売れている。カンパニーカーとは会社から供給されているクルマのことですが、なぜ欧州に多いかといえば、所得税が高いから。現物支給したほうが税金が安くて済むんですね。
小沢 会社から現金をもらってクルマを買うより、クルマを直接もらったほうがオトクだと。
木村 その通り。企業にとっても、個人にとってもいいんです。そのカンパニーカーは、「脱ディーゼル」といった状況変化に対して本来は反応が鈍いものです。なぜってリースで車両の買い取り価格が保証されていますし、ガソリン代まで会社持ちですから。エグゼクティブになると、個人の携帯電話代まで企業が払うくらいで、身持ちのモノの相場変動に関心が薄くなるわけですね。
その欧州においてディーゼル比率が20ポイントも落ちているということは、日本のように身銭を切ってクルマを買っているお客様のほとんどが、ディーゼルを買ってないということになります。
小沢 なぜですか。イメージはともかくディーゼルの方が露骨に燃料代が安くて済むのに。
■5年後の中古ディーゼル車の価格は?
木村 リセールです。もしも欧州でディーゼルを買った場合、3年後、5年後にそれがいくらになるか、現時点では誰にも分からないんです。そうなると、怖くてディーゼルなんて買えないですよね。
小沢 確かに! 中古価格が落ちるだけならまだしも、地域的にディーゼルに乗っちゃいけない場所が出たりすると怖いですね。(編集部注 欧州では大気汚染対策としてディーゼル車の乗り入れを制限しようとする都市が増えている。マドリード、アテネなどは25年までにディーゼル車の乗り入れを制限する方針を打ち出している。ドイツの連邦行政裁判所も都市部の市街走行禁止を認める判決を出した ※記事「ディーゼル車、なぜ撤退相次ぐ? 不正・規制が引き金」参照)
木村 お客様のほうがそう言い始めているんです。
木村 しかも皮肉なことに、企業平均燃費がいいフランスのルノーも、プジョー・シトロエンも、ディーゼルから徐々に撤退しているのに、スキャンダルを起こした当のドイツ勢だけがディーゼルにこだわっている。なぜかというと、燃費のいいディーゼルがないと、欧州で求められている企業別平均燃費基準(CAFE)をクリアできないからです。CAFEの罰金は本当に厳しくて、平気で1台当たり数万円あるいは数十万円にまで達します。これをVWの台数で掛けたら、とてつもない罰金額になってしまいます。
小沢 確かにVW、メルセデス、BMWは脱ディーゼルどころかより新しいクリーンなディーゼルを躍起になって開発しています。
木村 同じディーゼルにこだわる企業でも、日本のマツダさんなどはユニークな技術をお持ちだし、理由が違うと思いますが、ドイツ勢がこだわる理由はCAFEとサプライチェーンですよね。自動車メーカーは部品メーカーと系列でつながっているから、ディーゼルをやめたらいきなり「おまんま食い上げだ」というメーカーさんがたくさん出るはずなんです。それなのにボルボは先にやめると決めた。日本でもインパクトがありますよね。
もちろんディーゼル車は燃費以外にもいいところがたくさんあって、エンジントルクが太いからストップ&ゴーが多い通勤でも運転がラクですし、余裕もあるんですが、もし5年後売ったときに本来値段が付けられる車両が「ゼロですよ」とか「ディーゼルだから取れません」となるのはプレミアムブランドとして絶対やってはいけないこと。だから早めにディーゼルを絞り込もうという決断に至ったのです。
■車種ごとに異なる対応
小沢 ボルボ・ジャパンでは、新型V60以外のボルボ車はどうするんですか?
木村 次に出るセダンの「S60」は日本、欧州でもディーゼルなしです。米国で造りますから。
小沢 ラージSUVのXC90はどうですか?
木村 今春ディーゼルを導入予定です。このくらいのセグメントになると長距離乗られるお客様が多くて燃費ニーズも強いし、ガソリンハイブリッドを搭載しても燃費をそれほど取り戻せないので。
小沢 その下のコンパクトはもちろんディーゼルなし?
木村 今はあるけどやめていくということですね、XC40のディーゼルは。インパクトが大きすぎるかと思って、ストレートに宣言はしていなかったんですが(笑)。
小沢 しかしボルボはジャッジが速いですね。木村体制ならではですか。
木村 いえいえ、本社と相談してですよ。
■販売的には「かなり痛い」
小沢 ということはボルボ全体としてはいつディーゼルから完全撤退するんでしょう。
木村 本社でもまだ決めていないと思います。厳しいCAFEがありますし、25年くらいまで予断を許さない。燃費の悪いラージクラスはしばらくディーゼルを残さざるを得ませんし。
小沢 それに、根強いディーゼルファンはいますよね。日本もそうですが、販売には影響しないんですか。BMWなどは「3シリーズ」「5シリーズ」は半分以上がディーゼルモデルが売れているという話も一部にはありますし。
木村 うちも前のV60は、販売者数の約7割がディーゼルモデルでした。
小沢 やはり。そう考えると痛い。
木村 かなり痛いですよ。今でこそいろいろ言われますが、ディーゼルを買われるお客様は、ディーゼルの良さを知っていますから。逆に悪口を言うと「あなたたちは世間知らずだ」と言うくらい。ディーゼルユーザーは8割以上が品質に満足されているので、ちゃんと説得しないとガソリンには戻っていただけないと思います。
小沢 そう考えるとすごく難しい判断ですね。基本海外での話なので。
木村 ものすごく厳しかったですが、うちは代わりにプラグインハイブリッド車「T6」を普及させる戦略を取りに行きます。今の想定ではV60「T6」は650万円を切るのでインパクトあるんじゃないかと。さすがにモーターとバッテリー内蔵なのでディーゼルには負けますが。
小沢 今後のボルボ・カー・ジャパンはそこを訴えていく。
木村 新世代のエコパワートレインはハイブリッドという方向です。
小沢 一方で、完全に脱ディーゼルとは言えないわけですよね。
木村 完全に言い切る必要もないですし、ディーゼルがお好きな方はXC60以上の車格でぜひディーゼルを楽しんでくださいと。その両面作戦で考えています。
小沢 つくづくかじ取りの難しい時代ですね。
小沢コージ自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は日経トレンディネット「ビューティフルカー」のほか、『ベストカー』『時計Begin』『MonoMax』『夕刊フジ』『週刊プレイボーイ』、不定期で『carview!』『VividCar』などに寄稿。著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。
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最終更新:1/10(木) 12:15 NIKKEI STYLE
私のコメント : 平成31年1月15日、ボルボが、平成31年(2019年) 以降に導入する新型車は全て電動化(EV・PHEV・マイルドHV)させると発表。エコ化の先陣を切った北欧ボルボ。日本でもボルボ・カー・ジャパンが待望の新型ステーションワゴン「V60」にディーゼルを設定しないと発表した。現状、輸入車に関してはドイツ、フランス勢ともにパワーと燃費に優れたディーゼルが人気という日本市場で、いち早く決断を下した理由は何か。・・・
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1位はボルボ V60!──2018年の「我が5台」Vol.3 日下部保雄編
2018年のベスト・カーは? との質問に、第一線の自動車ジャーナリスト15人が答を出した。果たして、それぞれにとっての2018年のベスト・カーは? 第3弾は、日下部保雄の登場だ!
文・日下部保雄 写真・花村英典、安井宏充(Weekend.)
第1位 ボルボ V60
従来のステーションワゴン「V70」を彷彿とさせるボクシーなボディを、現代風にスリークなデザインでまとめ上げたのが新型「V60」だ。
V90からはじまった新しいプラットフォームの流れを汲む剛性感の高さがまず第1。そして、4気筒横置きエンジンに限ってのことだけれど、ハンドルの切れ角度が大きくなり、さらに重心高も低くなって安定感も高まった。
なんといっても1850mmの全幅は日本でも使いやすい。また2870mmのロングホイールベースによって、リアシートのレッグルームは広く、スクエアな荷室は外観以上に大量の荷物が積める。滑らかな2リッター直列4気筒ターボエンジンもフラットなトルクで魅力的だ。
V60にはズバ抜けた特徴はないものの、高いバランスがボルボらしい。2019年に登場する「T6」と呼ばれるPHV(プラグ・イン・ハイブリッドカー)も、輸入車としては戦略的な価格で導入される。こちらも注目だ。
第2位 トヨタ クラウン
試乗コースのワインディングロードをノンビリと流していたとき、「乗りやすくていいクルマだなぁ」と、しみじみ思った。
ツイスティなコーナーの連続でハンドルを切り返したときもロールは少なく、応答性も素直。高速コーナーが際限なく続き、大きなGがかかることで有名なニュルブルクリンクのコース(ドイツ)でおこなわれたテストの際も、ドライバーから評価が高かっただけのことはある。
とくに2.0リッター ターボのフットワークの良さはクラウン各シリーズ中、もっとも軽快で楽しい。今なお高い人気の、“ゼロクラウン”(12世代目)を彷彿する走りに振ったモデルだ。
ちなみに全幅1800㎜のボディサイズは、日本の狭い道や駐車場事情を考慮した結果。やはりクラウンは“日本の高級車”に変わりはないのだ。
第3位 ボルボ XC40
XC40とのファーストコンタクトは衝撃的だった。20インチタイヤを履いた「ファーストエディション」(導入時限定車)は、まるでスポーツカーのようなハンドリングで、到底SUVとは思えなかった。
そのあと乗った18インチタイヤの個体も、コーナーを踏ん張るようなグリップ感こそなかったものの、“軽いスニーカー”を履いたような感触が好ましかった。コンパクトカー用の新プラットフォームはクラスを超えた出来栄えだ。
とはいえ、XC40の魅力は、走りもさることながらクルマのヒエラルキーに関係なく、自分のライフスタイルに合わせてクルマ(グレード)を選択できる個性豊かな面であると思う。
豊富なボディカラーにインテリアカラーはどれも魅力的だ。複数から選べるシート表皮も、材質、デザインともに吟味されている。それらを、自分好みに仕立てられるのがよい。それでいて実用性も高く、まるで日本の軽自動車のように小物入れも豊富に設置する。しかも、デザインまで凝っているからすごい。
ちなみに、“コンパクト”であるが、ちょっぴり広い1875㎜の全幅によって居住性もまずまず。あらゆる面においてバランス感覚に優れたコンパクトSUVだった。
第4位 トヨタ カローラスポーツ
「カローラ」と、聞くと最近では社用車をイメージする場合が多い。しかし、「カローラスポーツ」はがらりと変わって、個人ユーザーをターゲットにした4ドア+ハッチバックに仕上げられた。しかも、日欧同一モデルだ。
欧州では「オーリス」のネーミングで販売されるカローラスポーツは、1.2リッター直列4気筒ターボエンジンと1.8リッター直列4気筒+モーターのハイブリッド仕様、という2機種のパワートレインを持つ。とくに、前者のガソリンターボはいまどき珍しく、日本向けにも6MT仕様を設定する。「走り」へのこだわりは、本気のようだ。
トヨタの新しいクルマづくりシステム「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」も第3弾となり、完成度はさらに高く、軽快なフットワークと強力なトラクションが魅力だった。
がっちりとしたボディはドライバーとの一体感を持ち、“クルマを運転している”といった思いを強く感じさせる。とくにハイブリットとの相性が優れている、と個人的には思った。
<番外編>見直した1台 メルセデス・ベンツ Cクラス
メルセデス・ベンツCクラスは2018年のビッグマイナーチェンジで6500カ所にも及ぶ改良が施された。エクステリアの変更よりも、中身の磨き上げに注力していることがメルセデスらしさを感じさせる。
1.5リッター直列4気筒ターボエンジンと48Vの電気モーターを組み合わせたマイルドハイブリッド仕様「C200」はパンチ力こそないものの、段付き感のない伸びやかな加速で気持ちよく、しかも極めて静かだった。
高いボディ剛性とたっぷりとしたストローク感のあるサスペンションのコンビネーションは安定感という言葉では言いあらわせないほどの心地よさを感じさせてくれる。
ベースグレードのC180は従来とおなじエンジン(1.6リッター直列4気筒ターボエンジン)であるが、マイナーチェンジを受けたボディとの組み合わせによって、ホッとさせる心地よさを上質に提供する。まさに熟成のCクラスは絶妙なサイズ感と相まって、誰にでも勧められる1台だ。
【著者プロフィール】
日下部保雄(くさかべやすお):1949年東京都生まれ。慶應義塾大学在学中より。モータースポーツ活動開始。以来国内外のラリー、レースで多くの優勝経験を持つ。タイヤ、サスペンションの開発にも長い経歴を持ち、モータースポーツで培った技術とともにそれらの経験に基づいた試乗記を多くの媒体に寄稿する。
連載 GQ CARS 2018年の「我が5台」